高分子の分子量(数平均分子量と重量平均分子量)について

高分子について

低分子は単一分子として存在するため、分子量は組成式(分子構造)に依存してある一定の値となる。
一方で高分子はさまざまな分子量のポリマーの混合物であるため、その分子量を議論する際には注意が必要となる。

高分子の分子量を表す指標

高分子の分子量は主に、数平均分子量(Mn)重量平均分子量(Mw)で議論される。
高分子の物性は一般的に数平均分子量(Mnよりも重量平均分子量(Mw)に依存するため、高分子の物性を議論する際には重量平均分子量(Mw)がよく用いられる。一方で数平均分子量(Mn)は高分子合成の際に、ポリマー鎖一本あたり何分子のモノマーを重合さるか計算する時などに用いられる。

数平均分子量(Mn)

分子1本あたりの重量の平均

高分子中に分子量 $M_i$ の分子がそれぞれ $N_i$ 個存在する場合、数平均分子量は次式で定義される

$$ Mn = \frac{ポリマー全体の重さ}{ポリマー全体の分子数} = \frac{\sum{M_iN_i}}{\sum{N_i}} $$

重量平均分子量(Mw)

重量分率を考慮した平均分子量

高分子中に分子量 $M_i$ の分子がそれぞれ $N_i$ 個存在する場合、数平均分子量は次式で定義される。

$$ Mw = \frac{(重さ \times 分子量)の和}{ポリマー全体の重さ} = \frac{\sum{M_i^2N_i}}{\sum{M_iN_i}} $$

多分散度(PDI:Poly Dispersity Index)

分子量の分布がどの程度広がっているかの指標

$$ PDI(多分散度)= \frac{重量平均分子量}{数平均分子量} = \frac{Mw}{Mn}$$

低分子のように単一分子であれば、MnとMwが同じ値を取るので、Mw/Mn=1となる。
ここから、高分子のように分子がある一定の分布を持つようになると、Mw/Mnの値が1よりも大きくなる。
つまり、分布が広いほどMw/Mnが大きくなる

計算例1

あるポリマーが以下の分子から構成されているとする。

  • 分子量 10,000の分子:1個
  • 分子量 5,000の分子:5個
  • 分子量 1,000の分子:9個

この時、数平均分子量Mnおよび、重量平均分子量Mw、多分散度PDIは

$$ Mn = \frac{(10000\times1) + (5000\times5)+(1000\times9)}{1+5+9}=2933.3$$

$$ Mw = \frac{(10000^2\times1) + (5000^2\times5)+(1000^2\times9)}{(10000\times1) + (5000\times5)+(1000\times9)}=5318.2$$

$$ PDI = \frac{Mw}{Mn} = \frac{5318.2}{2933.3} = 1.81$$

計算例2

(高分子の物性がMnではなくMwに依存する理由)

あるポリマーが以下の分子から構成されているとする。

  • 分子量 10,000の分子:10個
  • 分子量 100の分子:10個

この時、数平均分子量Mnおよび、重量平均分子量Mwは

$$ Mn = \frac{(10000\times10) + (100\times10)}{10+10}=5050$$

$$ Mw = \frac{(10000^2\times10) + (100^2\times10)}{(10000\times10) + (100\times10)}=9902$$

また、この時単位重量あたりに含まれているそれぞれの分子量のポリマーのモル比率は1:1(= 10:10)なので、そこから重量比率を求めると

分子量10000のポリマー
$$ Wt(\%) = \frac{10000}{10000+100}\times100 = 99 (\%)$$

分子量100のポリマー
$$ Wt(\%) = \frac{100}{10000+100}\times100 = 1 (\%)$$

となり、このポリマーのほとんどは分子量10,000の分子から構成されており、分子量100の分子はほとんど入っていないこととなる。

しかし、数平均分子量(Mn)は5050と、低分子量成分(分子量100)の影響を受けてかなり低くなっている。

一方で重量平均分子量(Mw)は9902であり、低分子量の影響をあまり受けておらず実際のポリマーの状態をうまく表現していると言える。実際に高分子の物性はMnよりもMwに依存する。

測定方法

  • 粘度法:毛細管粘度計によりポリマー希釈溶液の流下時間を測定し、固有粘度 $\eta$を求め、粘度式 $\eta=KM^a$ から $M$ (粘度平均分子量))を算出する。
  • GPC法:細孔を有するカラムを用いることによって、測定対象物を分子サイズの違いで分離する手法(ゲル浸透クロマトグラフィー)

参考HP

関連書籍